はじめに
学校を卒業され新卒入社される方、転職される方のいずれの場合にも、「試用期間」が設けられる場合があります。試用期間というのは、法律で定義が定められているものではありませんが、労働者が入社する会社の業務に本当に適正があるのか?また労働者にとっても実際働いてみて入社前とのギャップがないか?という点をよく考え、もし合わないようなら早めに退職することが会社と労働者の双方にとって有益であることから、多くの会社で導入されています。
しかし、このような試用期間の意味合いに反して、「試用期間なら簡単に辞めさせることができるので、気に食わないやつは辞めさせよう。」「上司と気が合わなさそうだから、辞めさせよう。」「業績が思ったほよくないので、採用を辞めたい。」などという理由で、試用期間を悪用して、本採用拒否や解雇がされることがあります。
「試用期間なんだから、しょうがいない。」という話も聞きますが、本当に試用期間なら、どのような理由でも本採用拒否や解雇をしてもいいのでしょうか。納得できない理由でクビになっても、諦めないといけないのでしょうか。
試用期間の意味とは?
「試用期間」とはどういう意味なのでしょうか。
試用期間というのは、本採用の前に試験的に使用されている労働者の場合をいい、その期間中に勤務態度、能力、性格などをみて正式に採用するかどうかが決定されるというものです。
法的にいうと、試用期間中であっても採用されている以上、労働契約が成立していることを前提として、試用期間中は使用者に労働者の不適格性を理由とする解約権が留保されているものとされています(解約権留保付労働契約)。
もし、試用期間中に、期待した能力ではなかったと評価された場合など、この解約権を行使して、本採用拒否=解雇となります。
試用期間を設ける会社のメリットとしては、本採用後の解雇よりも、広く解雇が認められやすくなるというところにあります。
試用期間の長さはどれぐらいか?
法律で試用期間に上限が決められているわけではありません。
そのため、試用期間をどれぐらいにするのかは、会社が自由に決めることができると思っている方がいらっしゃいます。
実際、試用期間が2週間の会社もあれば、3カ月、6か月の会社もあります。
しかし、実は不必要に長い試用期間を定めた場合は、その試用期間は無効と判断されることがあります。
裁判例でも、試用期間を「2年間」と定めた会社は「合理的範囲を越えている」 ために無効と判断された事例があります。
試用期間は、面接ではわからなかった採用した方の能力、性格や勤務態度等を見て会社に合う方なのかを判断する期間であって、その判断に2年もかかるというのは一般的にもおかしいと分かるはずです。
このように、試用期間の長さは、採用した方の能力や勤務態度の評価を行うのに必要な合理的期間のものでなければならないのです。
なお、試用期間が長期間となり無効となると、通常の解雇と同じように厳しい基準で解雇が判断されることになります。
ブラザー工業事件
【事案】
裁縫用のミシン機械等の製造販売会社では、中途入社の社員は、当初は6か月~1年3カ月の期間は見習社員として雇用し、その後6か月~1年以内に社内で行う試用社員登用試験を経て試用社員となり、さらにその後、社員登用試験を経て正社員に登用されるという制度を採用していました。そのような中、女性の現業従業員が社員登用試験に不合格となったため、女性従業員を試用社員として本採用拒否・解雇をしたことから、女性従業員が解雇の不当性を主張したという事案です。
【判断】
見習社員としての期間が実質的には試用期間であり、その期間で会社が適正を判断するのは充分可能であることから、試用社員の期間は試用期間として合理的範囲を超えたものとして無効と判断しました。
【理由】
一般に、試用期間中の留保解約権に基づく解雇については本採用後の通常の解雇の場合よりも広い範囲の自由が認められるものと解されることから、試用期間中の労働者の地位は本採用後の労働者の地位に比べて不安定であるというべきである。そのため、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効になると判断しました。そして、上記の判断に至りました。
試用期間の延長は合法?
試用期間中に、従業員としての適性を見極める必要がありますが、必ずしも試用期間中に適正を判断できる場合ばかりではありません。もう少し、様子を見たいという場合もあるでしょうし、本人のやる気などに改善がみられるか時間を要する場合もあるでしょう。
そのような場合に、試用期間を延長することが認められるでしょうか。
従業員としての立場が不安定になることから、試用期間の更新・延長は原則としては認められないと考えられています。
しかし、試用契約を締結した際には、予見しえなかったような事情により試用期間中に適格性の判断をなしえなかったため、本採用を拒否できる事由がある場合にそれを猶予するためなど合理的理由がある場合は認められる余地があると考えられています。
つまり、本来であれば、本採用拒否が認められるような場合に、本採用拒否を避けるために、猶予期間を与えたいという場合のみ、試用期間の更新・延長は認められることになります。
試用期間が終わったのに特に何も言われない場合は本採用という意味か?
通常試用期間は、給料が低く、本採用後給料が上がることが多いです。そのため、試用期間が終了した際には面談があったり、正社員登用への意思確認があることが通常です。
しかし、試用期間中も本採用後も給料が変わらないという会社もありますし、契約管理ができておらず、試用期間満了を見過ごしている場合もあります。
そのような場合、試用期間経過後に慌てて本採用拒否をする場合がありますが、本採用拒否がされないまま試用期間が過ぎれば、解約留保権は消滅し、通常の労働契約関係に移行しますので、通常の解雇となります。
したがって、試用期間が満了した後は、本採用拒否の意思を示されない限り、当然に正社員に登用されたことになります。
試用期間後の本採用拒否は法律的にどういう意味か?
試用期間が終わった際に本採用をせず会社を辞めてもらうことを本採用拒否、不採用、本採用見送りなど色々な言い方をしますが、法律的にいうと解雇に他なりません。
本採用後の解雇と比べると緩やかに解雇の有効性が判断されるというだけで、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認される場合にのみ合法になります。
「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする。」
試用期間であっても解雇予告手当は貰えるのか?
会社から本採用拒否を言い渡され、会社と良好な関係を築くことができないと考えた場合や会社と揉めたくないと考えた場合は、本採用拒否を素直に受け入れることも一つの手段です。
このような場合、せめて解雇予告手当を請求することはできないのでしょうか。
試用期間開始から14日を超えて試用されている労働者の場合は、解雇予告手当が必要になります。他方、試用期間開始から14日を超えない試用期間で本採用拒否をされた場合は、解雇予告手当を支払う必要がないとされています。
「前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、、、、、、第4号の該当する者が14日を超えて引き続き試用されるに至った場合においては、この限りではない。
四 試の使用期間中の者 」
試用期間満了後の本採用拒否に対する争い方
試用期間満了後の本採用拒否=解雇ですので、解雇には合理的な理由がなく、解雇という手段は社会通念上不相当であると主張して、争うことになります。
具体的には、従業員としての地位があることを前提とした復職請求や本来であれば支払われるべきであった給料の請求、場合によっては慰謝料の請求が考えられます。
詳しくは、
をご覧ください。
ただし、本採用後の解雇と比べると、本採用拒否は、緩やかに解雇の有効性が判断されることに注意が必要です。
他方、試用期間途中の解雇は、逆に解雇の有効性が厳しい基準で判断されることになります。なぜなら、適性を確認するために必要な期間であるとして設けられた試用期間の目的としては、少なくともその期間については、様子を見るべきという考えがあるからです。
そのため、解雇が有効となるためには、試用期間の満了を待つまでもなく従業員の資質、性格、能力等を把握することができ、、、、従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められることが必要であるとされています。
試用期間中の解雇・満了後の本採用拒否の判例について、ご説明します。
社会保険労務士法人事件(試用期間中の解雇)
【事案】
ある社会保険労務士法人に採用になった社会保険労務士の有資格者である労働者は、試用期間3カ月という労働契約を締結しました。しかし、「顧問先会社の従業員の雇用保険に関する資格取得手続を顧客及び上司に確認せずに行ったことから、社労士業の基本である手続業務における能力不足が認められるため、職員として不適格であると判断」したという理由で試用期間中に即時解雇をされました。そこで、これに不服を持った労働者が解雇の不当を訴えたという事例です。
【判断】
解雇は、試用期間の趣旨目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されるものということはできない。と判断し、解雇を違法・無効と判断しました。
【理由】
労働者に確認不足があったとしても、一度は始末書の提出に留めようと考えていたこと、労働者が実務経験に乏しい初心者であることを前提に採用されたこと等も合わせて考慮すると、本件申請手続前に、顧問先会社または法人代表に対し、確認をしなかったという事情をもって解雇することは許されない。として、判断内容の結論に至りました。
空調服事件(本採用拒否)
【事案】
労務管理および経理業務を職務内容あるパート従業員が試用期間1ヶ月の労働契約を締結しました。その後、パート従業員は、決算書に誤りがあることを発見したところ、社内のほぼ全員が集まる全体会議において事前の相談なく試算表や決算書に誤りがあると突然発言したことにより、解雇されました。そこで、これを不服としてパート従業員が解雇の不当を訴えたという事案です。
【判断】
本件解雇には、解約権を行使する客観的な合理的な理由が存在し、社会的に相当であるとして、解雇は合法であると判断しました。
【理由】
使用者による試用期間中の労働者に対する留保解約権の行使は、本採用後の通常解雇より広い範囲で認められるべきであるが、解約権の留保の趣旨・目的に照らして、使用者において、採用決定後の調査や就職後の勤務状況等により、採用時に知ることができず、また知ることを期待できないような事実を知るに至った場合であっても、その者を引き続き雇用しておくが適当でないと判断することが客観的に相当であると認められる場合など、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在し、その行使が社会通念上相当として是認さ得る場合にのみ許される。
そして、企業にとって決算書などの重要な経理処理に誤りがあるという事態はその存立にも影響を及ぼしかねない重大事であること、仮に担当者において経理処理場の誤りを発見した場合においても、まず、誤解がないかどうか、慎重な検証を行い、誤りがないと確信した場合においても、経営陣などで対処方法を検討するという手順を踏むことが期待されるところ、そのような手順を一切踏むことなく、全体会議で発言をしたことは経理担当者として資質を欠く者として判断されてもやむを得ない。
そして、このような事情は採用するに当たって事前に承知することができない情報であり、かつ、事前に承知していたら採用することはない資質に関する情報である。
※裁判例を分析すると、採用時に分かっていた事実(例えば、実務経験がない、業界未経験、資格がないなど)に基づいて本採用拒否をすることは許されず、試用期間中に初めてわかった事情が解雇の有効性を判断する際の事情とされるようです。
最後に
以上のように試用期間後の本採用拒否は解雇であり、当然に本採用拒否が認められるわけではありません。本採用後の解雇と比べると緩やかな基準で解雇の有効性が判断されるという事情はあるものの、合理的な理由があることや解雇という手段が相当であること、という条件は必要です。
あなたが試用期間中の解雇や本採用拒否を不服に思っているのであれば、もしかすると合理的な理由がないのかもしれませんし、解雇という手段は行き過ぎなのかもしれません。
大阪バディ法律事務所は労働問題を積極的に扱っており、試用期間中の解雇等不当解雇問題についても豊富な実績があります。
少しでもお悩みがあるのであれば、お気軽に当事務所の弁護士まで電話で無料相談をしてください。
解雇・本採用拒否をされてから長期間経過してしまうと解雇が争いにくくなりますので、お早めにご相談下さい。ご連絡お待ちしています。