はじめに
「仕事中にケガをしてしまったため、長期間入院した。」「長時間労働のためうつ病になってしまい会社に行けなくなった。」というような労災は日常で多く発生しています。
そして、このような労災事故に遭うと、労災決定が下りるまで、生活費やケガが治るのか心配になることも多いでしょう。
そのような状況にもかかわらず、「働けないのだったら、クビにする!」という不安な気持ちに追い打ちをかけてくる会社もあります。
あなたが普段頑張って仕事をしてきたにもかかわらず、仕事中の事故にもかかわらず、会社は一方的にあなたを見捨てるのです。
このようなことは許されるのでしょうか。
労働災害(労災)とは?
労災について、労働安全衛生法という法律で定義がされています。
労災とは、労働者の就業に係る建造物、設備や作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷等することをいいます。
この定義を分解すると
①業務遂行性(仕事中に発生したこと)
②業務起因性(仕事が原因であること)
の2つの要件が必要とされています。
例えば、任意参加での歓迎会でアルコール中毒になった場合は、仕事中ではないとして、①業務遂行性が無く、労災事故とはいえません。
また、職場の同僚同士の喧嘩であれば、仕事時間中であっても、仕事が原因であるとは考えられませんので、②業務起因性が無く、労災事故とはいえません。
「労働災害 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう」
労災の種類とは
労災については、2つの種類があります。
労災であることに変わりはありませんが、様々なところで異なる扱いがされますので、区別して考えられています。
どのような種類かというと
①業務災害
と
②通勤災害
です。
業務災害と通勤災害の定義は、労働者災害補償保険法で定められています。
業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます。
通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます。
定義は文字通りそのままですね。
「この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付」
業務災害と通勤災害を区別する意味?
2つを区別する意味は、通勤災害の場合、
①会社に責任がないという点
②業務遂行性が本来的には薄いという点があるからです。
その結果、様々な点で取り扱いを変えるべきという要請が出ます。
例えば、業務災害の場合は、労働者死傷病報告書という書類を提出する義務がありますが、通勤災害の場合にはありません。その理由は、通勤災害の場合、会社に責任がないことから、災害原因を精査させる等の必要性が低いからです。
また、これからご説明する解雇制限についても取扱いが異なります。
業務災害と解雇制限
業務災害により、負傷したり、病気にかかったため、療養のため休業する期間及びその後30日間は、解雇できません。
労働者が働くことができないときに解雇されると、労働者の生活が苦しくなることから、労働基準法は解雇制限を定めました。
会社が解雇制限に違反して、労働者を解雇した時は、6か月以下の懲役又は30万円の罰金が科されることになります。つまり、解雇制限違反は、犯罪になるのです。
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間、、、、は、解雇してはならない。」
「次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」
しかし、
①治療中であっても、そのために仕事を休まず出勤していれば、この解雇制限は適用されません。
②また、休業とは、全く出勤しないこと意味し、早退や遅刻をしながら、出勤していると、この解雇制限は適用されません。
③さらに、症状固定後(ケガが治った場合や治らず後遺障害が残る場合などこれ以上治療をしても効果がない場合)にも、この解雇制限は適用されません。
④加えて、通勤災害は、業務災害とは異なりますので、通勤災害の場合、この解雇制限は適用されません。
解雇制限と打ち切り補償
以上のとおり、業務災害でケガが病気になった場合には解雇制限があります。
しかし、ケガが何年も治らないにもかかわらず、会社がいつまでも解雇できないとすると、会社にとって酷な結果になります。
そこで、打ち切り補償という制度を定めました。
打ち切り補償とは、労災による療養補償給付を受けていた労働者が、治療開始後3年を経過しても、症状固定の状態にならない場合には、使用者は平均賃金の1200日分の打ち切り補償を支払えば、解雇制限は解除され、解雇が認められるというものです。
つまり、労災より治療費の支払を受け3年間治療に専念したにもかかわらず、ケガや病気が治らなかった場合、会社は一定のお金を支払えば解雇できるという制度です。
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間、、、、は、解雇してはならない。
ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。」
「第75条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」
解雇制限は自主退職も対象?
以上のとおり、業務災害により休業している者に対しては、解雇ができません。
解雇したいのであれば、治療開始から3年経過後に平均賃金の1200日分を支払わなければ解雇できず、他方打ち切り補償をせずに解雇すると罰則の対象となります。
そこで、会社は、自主退職を促し、自ら退職するよう促すのです。
解雇制限は、あくまでも「解雇」の制限であって、業務災害で休業している者でも、自主退職することは自由だからです。自主退職は解雇制限の対象ではないのです。
そして、自ら退職届を提出してしまうと、後日、実質的な解雇であると争うことは難しくなります。
したがって、会社から退職を促された場合、本当に退職していいのか慎重に判断すべきでしょう。
最後に
業務災害によりケガをした場合、会社による解雇は不当であり、無効になります。
したがって、ケガの療養中解雇をされたのであれば、直ぐに弁護士に相談すべきです。
また、労災事故について、会社に安全配慮義務違反があった場合、つまり、会社の過失によって労災事故を防げなかった場合は、会社に慰謝料などを支払う義務が発生します。
大阪バディ法律事務所は、解雇問題だけでなく、労災問題にも豊富な経験と実績があります。
当事務所では弁護士への相談料は無料、依頼する場合でも初期費用は一切かかりません。
労災で療養中・休業中に解雇された場合は、お気軽に当事務所の弁護士までご相談(無料)下さい。お電話お待ちしています。